沢登り

今回は沢登①を掲載します。沢登は山登りの全ての要素が必要です。沢歩き、岩登り、ザイルワーク、尾根歩き、等で特にルートファインディングが最も重要です。滝のどのルートを登るのが的確か、また最後の詰めをどの支沢に定めるか、これをうまくやらないと、ニッチもサッチも行かなくなり、大幅な時間ロスを生ずる。危険を伴うが、私がもっとも好きな分野だ。しかし年を取ると、体力、バランス感覚が落ち、ここの所ご無沙汰だ。

●奥裾花源流遡行(1974,9)

初めて本格的な沢登りは長野、戸隠山と高妻山の稜線に突き上げる裾花川の源流遡行だった。夜、入渓口に入り、夜明けとともに沢登を開始。結構水量が多く滝を登るのが大変だった。特にこの沢はゴルジュ(U字状の谷がが廊下のように続く場所)が発達している。両岸の高さは5m程もあり、昼間でも薄暗い。ここを遡行中に大水が来れば逃げ場がなく確実に遭難だ。そのゴルジュの3m位の滝を登っている時、ハーケンが抜け1m程落下した。頼りないハーケンだったため、カラビナを短い間隔で掛けていたため、怪我はなかった。人が殆ど入らない峡谷のため、途中猿群れに威嚇されたりしもした。稜線に出るころにはすっかり日が暮れヘッドランプが必要だった。12時間ひたすら遡行した。

●甲武信岳東沢(1980,9)

甲武信岳に突き上げる沢で、グレードは高くないが、200mにも及ぶ素晴らしいナメ(流れがゆっくりで滑り台のような場所)があり他では見ることができない素晴らしい絶景だ。途中に厳しいルートも枝分かれしており、色々グレードも選べる。紅葉シーズンに行くと沢とのコントラストが素晴らしい。機会があったらぜひ挑戦してほしい。

●エビラ沢(1982,6)

この頃から沢登りにハマってゆく。丹沢や道志の沢を中心に少しグレード高いルートを選んで挑戦が続く。エビラ沢は道志、神ノ川水系では比較的アプローチの短い沢だ。危険な滝は高巻きしてもいいのだが、みんな血気盛んですべての滝を高巻きせずに登るをモットーに頑張ったものだ。足回りは、ワラジに地下足袋が定番だったが、今の沢靴より、安定して滑りにくかった。

●小常木谷(1982,7) 

丹沢山系には著名な沢は数多くある。同角沢、小川谷廊下、伊勢沢、ザンザ洞、等である。また奥秩父にも面白い沢があった。水晶谷やこの後出てくる豆焼沢、後は笛吹川水系等である。その中でも小常木沢、大常木沢は比較的登りやすく、詰めると前飛龍山に出る。車で入渓点まで行き、終了後再び車に戻れるルートを考える計画立案は楽しかった。また何といっても、同世代の沢登りを好む仲間がいたから、なし得た結果だと思う。

●上ノ廊下(1982,8)(撤退)

沢登りの計画もエスカレートしてくる。グレードの高い上ノ廊下に挑戦してみようとの話が出て、計画を実行に移す。黒部ダムより平ノ渡しを経由して、東沢と上ノ廊下の合流点の奥黒部ヒュッテの東沢寄りにテントを張った。流れより10m程離れた砂地だった。その夜、豪雨に見舞われた。夜中、東沢、上ノ廊下の激流の音がすざましかった。朝起きてみてびっくり。流れから10m程あった川床が激流で5m程も侵食されていた。もう少し流れが強ければ、濁流にテント毎飲みこまれていたかもしれない。この状態では上ノ廊下はあきらめざるを得ない。しかし激流で東沢にかかっていた丸太橋が流され、黒部ダムへの退路が断たれてしまった。激流を渡るのは危険すぎた。皆、勤めもあり奥黒部ヒュッテで停滞している訳にはいかない。そこで出した結論は読売新道を登り、裏銀座を経て松本へ帰還するルートだ。今考えると気の遠くなる帰還路だが、皆若かったということか。

●五十沢、足拍子沢(1983,7)

沢登りも東京近辺から裾野が広がってきた。巻機周辺や谷川周辺に出向く機会が多くなった。ここで印象に残った五十沢と足拍子沢について触れよう。五十沢は本流を下から詰めると4泊が必要で、厳しく、1泊で楽しめる下ノ滝沢を遡行することにした。1日目は下流の簡易ダムを渡り、入渓。途中、下の滝を高巻いて、大きな岩棚のテントサイトで1泊。次の日は雨だったが大した厳しさもなく巻機山に詰め、下山した。ところが入渓した簡易ダムが増水で渡れない。やむなくザイルで体を固定して落ち口を避けて大きく半円形に泳ぎ対岸に着いた。緊張の連続だった。足拍子沢は上部になると滝が急峻でホールド、スタンスが少なく、最後は肩車をしてもらってやっと手がかりを探し、登り詰めた記憶がある。でも充実感は今でも忘れない。

●甲斐駒ケ岳、黄蓮谷右股(1989,8)

この谷は途中に200mを超すスラブと、3000m近い甲斐駒ケ岳の山頂に直接飛び出すのが魅了だ。しかし沢中、1泊が必要で登攀道具を含め荷物が重いのが難点だ。しかも今回人数が多く、時間がかかりそうだ。今回は集中形式をとっており、甲斐駒ヶ岳の山頂でコラボを計画した。200mのスラブを有する奥千丈の滝はは流石に厳しく、ザイルを張って慎重に登る。でも他の沢との違いは雄大な景色と迫力だ。特に大きな問題もなく、甲斐駒山頂に到達した達成感はいままでで一番だったかもしれない。先の来ていた縦走組と硬い握手をした。 

●奥秩父、豆焼沢(1996,7)

ここも印象に残った沢だ。数年前この沢で死亡事故も起きている。問題は核心部の豆焼大滝だ。40m×2段の滝、下部は中央岩稜を何とか登れるが、上部40mが手ごわかった。水際は水量が多く、コケですべりやすい。右の岩稜帯は手がかりが乏しい。ワラジで微妙なバランスを保ちながら濡れた岩稜と乾いた岩稜の間を慎重に慎重に登った記憶がよみがえった。高巻きもできたと思うが、大きな時間的ロスを生む可能性があり、中央突破で乗り切った。自分自身この滝が一番ヤバかったと感じている。豆焼大滝は滝の写真の中ではお気に入りで、全紙に引き伸ばして部屋に飾り、当時を偲びつつ、眺めている。

●赤木沢(1999,8)

黒部川源流の赤木沢の存在は専門誌等で知っていたが、高値の花だった。しかし仲間が現れ、決行した。時間節約のため神岡から北ノ俣岳を通り、太郎平小屋へ。そこから薬師沢小屋経由で入渓。黒部源流を赤木沢出会いまで遡行する。当時出会いにはイワナが沢山おり、水深も浅く、アイゼンで踏めば取れるほどだった。ここから素晴らしい沢が始まった。水量、岩棚、滝、周囲の緑、水の綺麗さ、どれを取ってもピカ一で特に難しい滝もなく、これが噂に聞いていた赤木沢かと実感した。またツメは黒部五郎の稜線に突き上げるが、高山植物がびっしりで、お花さん「ごめんなさい」と言いながら歩を進めた記憶がよみがえる。 

●大滝沢(1999,9)

この頃、東北の沢にも興味を向けた。吾妻連峰にあり、絶対的な迫力のある前川の大滝沢だ。落差200mを超すこの大滝は、見る人を圧倒する。勿論登ることはできず、左側を高巻くが、結構ヤバイ場所もある。そこを乗り切れば右写真の様な一般的な沢登りを味わえる。沢の上部は登山道と交わっており、簡単に下山できる。途中から見る大滝も素晴らしい。入渓地点近くには滑川温泉があり、疲れをいやしてくれる。この温泉は混浴であり、ほかの面でも目の保養になる。でも女性の方が度胸があり男どもはたじたじであった。

●西ゼン(2000,9)

谷川岳周辺にも面白い沢が沢山ある。中程度で楽しめるのが西ゼンであろう。土樽から入り、平標山に突き上げる。 一部微妙なバランスが必要な草つきのスラブもあるが、谷全体が開け、明るく、フリークライミングが楽しめる。水量も適度で沢全体が大きなナメを形成しており、沢登の魅力を満喫できる。高山植物を見ながら平標山に突き上げるのも楽しい。

●マンダナ沢(2002,9)

友達に誘われて、東北和賀山塊のマンダナ沢に挑戦した。予備知識は殆どなかった。当初の予定は一日で沢は終了する予定であったが、アクシデントが重なり、ビバークとなった。沢そのものは厳しさはなかったが、最後の詰めが非常に大変だった。沢尻は2時ころだったと思うが、詰めのヤブコミが大変だった。笹でなく灌木の密集する尾根のヤブコミを続けること4時間近く。ヘトヘトになって草原尾根に出たころには真っ暗。運悪く大粒の雨に見舞われた。やむなく緊急ビバーク。次の日は何とか十和田湖経由で帰路に着けたが、友達の奥さんが心配して、関係者に電話をしまくったらしい。

●ガラン沢(2009,9)

長野原から入り志賀高原に続く長大な荒れ沢である。冬、スキーヤーがガラン谷に迷い込んで遭難するケースもある。沢登りの対象は中流域に絞られる。入渓点は水量が多く、遡行が大変だった。深みにはまり、愛用のビデオカメラが遭難死したのは残念であった。大きな滝はなかったが、ルートファインディングをうまくやらないと、沢の横断に時間がかかる。上部は沢の崩落が激しく水量の少なくなったところで中断した。 

●米子沢(2012,8)

巻機山、米子沢を遡行したが、失敗談である。桜坂から米子沢に入る。大分遡行してから何か様子がおかしい。でも源頭迄詰めてみよう!が大きな失敗だった。何とか稜線に出たが、物凄いヤブコギが待っていた。ヤブコギする事約4時間、巻機山山頂にへとへとになって到着する頃は陽も暮れようとしていた。帰りはヘッドランプの助けを借り、桜坂についたのは20時を回っていた。

●大滝沢(2013,8) 2回目

今年の夏山合宿は東北の吾妻連峰周辺だった。宿は滑川温泉だ。各々グループでいろんなルートを楽しんだ。私は1日目は大滝沢の沢登りだ。大滝沢は以前遡行した経験があり、2度目を楽しんだ。この沢はの魅力は何といっても大滝で、その迫力には度肝を抜かれる。勿論登れず、右岸の高巻となるが結構厳しい。でもここを過ぎると楽しい沢登だ。尚滑川温泉は混浴である。

●鳳凰シレイ沢(2014,8)

今年の夏山合宿は、南アルプス御池小屋、集合集散であった。私は前夜御池小屋の泊まって、翌日再び広河原に降り、シレイ沢に向かうべく林道を登った。シレイ沢は過去に登った事があり、楽しい印象があった。しかし今回、沢の中には風倒木が散乱し、あまり魅力を感じなかった。最後の薬師岳への詰めは花崗岩の砂礫がズルズルで大変だった。